あとは、ちみっこ6人ですね。
最近は夜空を見ながら犬の散歩をしています。
犬が全力疾走してくれるので、ゆっくり星座を探してらんない。
南側は灯りが強くて星が隠れがちなのが残念です。
街の小さな広場には、子供達が大勢集まっていました。
皆、お化けの仮装をして、これからお菓子を貰いに行くのです。
一つの家に大勢で押し掛けては大変ですから、小さなグループに分かれて、それぞれ違う地区を回ります。
『はーい、星組さんになった子は、こっちに集まってくださーい』
蟹は星のマークが入った旗を振って、子供達を呼びました。
その声に、人ごみの中からひょこひょこと何人かの子供が寄ってきました。
『はい、この腕章をつけてね。これと同じマークの旗が目印だよ。
暗いから、迷子にならないようにちゃんと付いて来てね』
蟹が子供達の腕に星マークの腕章を付けてあげている後ろで、同じマークの入った旗を持った牡羊が、名簿をチェックしていました。
二人とも、今日はボランティアで子供達の引率を引き受けているのです。
名簿から顔を上げると、牡羊が蟹に声をかけました。
『蟹さん、全員揃ったみたいっスよ』
『そう? じゃあ、そろそろ行こうか』
蟹が言うと、牡羊は頷いて持っていた旗を高々と掲げました。
『さあ、出発!』
牡羊の後に子供達が並び、一番後ろを蟹が歩きます。
小さなお化けの群れは、皆ニコニコと嬉しそう。
他のグループも次々に街へと繰り出して行きます。
夕闇の中、賑やかな祭りの始まりです。
『ごめんねー、せっかくのお休みに付き合わせて』
住宅街の路上、古めかしい街灯の下で蟹が牡羊に謝りました。
子供達がお菓子を貰って帰ってくるまで、しばしの休息。
手持無沙汰に旗を振り回していた牡羊は、蟹の言葉に慌ててしまいました。
『なんで謝るんっスか? 別に全然構わないっスよ。そんなの。
子供は好きだし、祭りはもっと好きだし、それに』
『ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。
最近は人手もなかなか集まらないものだから』
わたわたと手振りをしながら言う牡羊に、蟹は穏やかに微笑みました。
蟹は天文台の職員で、牡羊は街の運送屋です。
街外れの、しかも小高い丘の上にある天文台。
細く、ろくに舗装もされていない道は、車も途中までしか入れません。
ですから、天文台への届け物は、決まって若くて体力のある牡羊の仕事になるのです。
天文台へ何度も行き来しているうちに蟹と牡羊は顔見知りとなり、じきに仕事以外の時にも会うほど仲良くなりました。
蟹はよく地域の清掃や催しを手伝っていたので、自然と牡羊も参加することが増え、今では欠かせないメンバーになりつつあります。
特に子供向けのイベントは、人手が女性と老人に偏ってしまうことが多くて、蟹や牡羊のような男手が喜ばれるのでした。
『お兄ちゃん、ただいまー!』
『お菓子、いっぱいもらったよ!』
元気な声とともに、子供達が戦利品を抱えて戻ってきました。
蟹も牡羊も笑顔で迎えます。
『おー、すごいな! カゴが満杯だ!』
『良かったね。ああ、こぼれてる。この袋をあげるから、ちゃんとしまっておこうね』
二人が子供達の世話を焼いていると、一人の少女が小さな包みを差し出しました。
『ん? なあに?』
蟹がしゃがんで話しかけると、少女はその膝上に包みを置きました。
『あげる』
『いいの?』
『うん』
少女は大きく頷いて言いました。
『お兄ちゃん、いつもお話をしてくれるから、お礼なの。
また今度、ほしのこのお話してくれる?』
『ほしのこ?』
牡羊が聞き慣れない言葉に首を傾げます。
それに気付いて、すぐに蟹が説明をしてくれました。
『この辺りに伝わる民話らしいんだけど、僕も所長から聞いて知ったんだ。
空の上に住んでいる不思議な子供のお話なんだよ』
『へえ… なんか、面白そうっスね。俺も聞きたいな』
『わたしも!』
牡羊と少女が言うと、周りで騒いでいた子供達も蟹の側に寄ってきました。
『お兄ちゃん、お話してくれるの?』
『僕も聞きたい!』
笑顔で応えながら、蟹は少し困ってしまいました。
祭りの時間は決まっていて、子供達を待ってる家がまだあと3件残っていました。
ゆっくりお話をしている暇などありません。
きちんと子供達を連れて家々を回るのが、今日の蟹の役目でした。
でも、子供達と牡羊の期待に満ちた瞳で見つめられると、つい甘くなってしまいます。
『…仕方ないね。じゃあ、歩きながら話そうか』
いつのまにか輝きだした星空の下、蟹達は次の家へと歩き出しました。