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星座に関する色々なメモ
No.
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No.26
2009/10/17 (Sat) 23:25:51

最初は、牡牛編として、牡牛単独話のつもりだったんだけど、
乙女と獅子が出張ってしまったので、三人で一つのお話ということに。
他の星座もボチボチ書いていきます。

あ、元ネタでは天文台の予算はまだ削られてなかったはずですが、
この話では、すでに削られています。牡牛所長すみません!

パーティには美味しいごちそうがたくさん用意されていましたが、牡牛にそれをゆっくり味わう余裕はありませんでした。
それというのも、街から出ている天文台の予算が、ここ数年削られ続けていて、近い将来施設そのものが閉鎖されるかもしれないと噂されていたからです。
牡牛がこのパーティにやってきたのは、遊ぶ為ではありません。
市長さんのご機嫌をとったり、街の人々を味方にして、天文台の仕事をこれからも続けられるようにしたいと考えているのです。
でも、牡牛はあまり喋るのが得意ではありませんでした。
談笑する人々の群れに交じってはみたものの、市長さんの自慢話にうんうん頷いたり、顔見知りの人と挨拶を交わすのが精一杯。
なかなか本当に話したいことを言い出せません。
自然に、押しつけがましくなくお願いをするというのは、牡牛にとってかなり骨の折れる仕事でした。

――駄目だなあ、こんなことでは。

牡牛ががっくり項垂れていると、飲み物を取りに行っていた乙女が戻ってきました。

乙女は天文台の職員の一人で、今年の春に街へ越してきたばかりの新人です。
最初は街中にアパートを借りて住んでいたのですが、星の観察の為、ほとんど帰ることなく天文台に寝泊まりするようになってしまい、見かねた牡牛が施設内の空き部屋を貸し出して、今はそこで暮らしています。
真面目で仕事熱心なのは良いのですが、仕事場にこもりぎみなせいで友人も少なく、滅多に遊びに出掛けることもありません。
今日のパーティも、あまり乗り気ではなかったのですが、牡牛が“これも仕事の内だ”と言って、無理やり連れてきたのです。

乙女がグラスを差し出したので、牡牛は礼を言って受け取りました。

『ありがとう』
『いえ。あの、所長』

乙女はまるで怒ってるみたいな真剣な顔で牡牛を見つめて言いました。

『今日は、無理に予算の話までする必要は無いと思いますよ。
 皆さんがハロウィンのお祭りを楽しんでいるのに、水を注すなんて逆効果でしょう?
 こうやって大勢の人と面識を持つだけでも、充分意味がありますよ。
 所長はいるだけで存在感がありますし、絶対に印象に残りますから』

いつもより少し早口で一気に喋ると、乙女はぺこりと頭を下げました。

『すみません。余計なことを』

急にしょんぼりとした乙女を見て、牡牛は笑いながら言いました。

『どうして謝るんだ。君の言う通りだね。
 こんな日に金のことで頭がいっぱいだなんて、つまらないことだ』

牡牛はグラスに入ったきれいな色のお酒を一口飲みました。
甘い、うっとりするような香りが口いっぱいに広がります。

『うん、うまい。私達も楽しまなくては損だね。さあ、君も新しい友人と親睦を深めてきたまえ』
『新しい友人?』

牡牛の言葉に、乙女は首を傾げました。
すると、いきなり背後から大きな声が飛んできました。

『おい、そこのモヤシ野郎、ちょっとこっちに来い!』

振り返ると、獅子がこちらに向かって手招きをしていました。
彼は市長さんの息子です。
普段は都会で一人暮らしをしているらしいのですが、今日のように地元のお祭りなどがあると必ず帰ってくるのです。
乙女は獅子とついさっき初めて会いました。
なのに、いきなりひどい仇名で呼ばれたものですから、思わず顔をしかめました。
本当なら、仲良くした方が良い相手です。
でも、こんな無礼に笑顔で返せるほど、乙女は器用な性格ではありませんでした。
ところが、何故か獅子は嬉しそうに口元を綻ばせました。

『なんだ、俺に楯突くくらいの度胸はあるんだな。結構結構』

歳はほとんど変わらないはずですが、獅子は完全に上から目線でした。
乙女はますます機嫌が悪くなりました。

『この街の若い連中は皆他所へ出て行くっていうのに、わざわざこんな田舎に越してくるなんて変わった奴だ』
『ここは星を観測するのに適した環境ですから』

不貞腐れた顔で乙女が言うと、獅子は目を丸くしました。

『たったそれだけのことで都会から出てきたのか?』
『それだけあれば充分です』

突き放すような物言いにも、獅子は全く動じません。
面白いオモチャを見る子供のように、興味津々で乙女を見つめています。
そして、満面の笑みを浮かべて言うことには。

『よし、だったら、俺にお前の大好きな星の話を聞かせてみろ。
 それで俺を感心させることができたら、予算のこと、考えるように口をきいてやる。
 でも、たいした話ができないようなら、来年には天文台が無くなるかもしれんぞ』

それを聞いて、乙女は呆れかえってしまいました。
天文台の予算は、乙女達にとって死活問題です。
なのに、獅子はそんな大事な事をネタに遊ぼうとしているのです。

――なんて非常識な奴。だいたい、市長の息子というだけで、何ができるものか。

最初は相手の立場を考えて控え目に振舞っていた乙女も、この頃にはもう獅子に遠慮は無用だと悟っていました。
だから、真正面から獅子を見据え、鋭く言い放ちました。

『わかった。話してやる。だが、今言った事、後悔するなよ?』

それから、まるまる三時間。
最初の一時間で獅子が音を上げても、説教込みで乙女の講義は淀み無く続けられました。
いつのまにか人垣が二人の周りを分厚く囲み、星の即席講座は大好評。
翌日から、にわか天文ファンが増え、ほんの一時ですが天文台も賑わったのです。

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