というわけで、久しぶりに更新。
ジェミニオン自体が久しぶりですね。
書きたいシーンは色々あるので、ポツポツ続けていきます。
今回は、メインキャラの顔合わせが終わったところ。
半分くらい蠍の回想(?)ですが。
歌声が聞こえる。
特別に技巧に富んでいるわけでもなく、声量も乏しい。
つたないと言って差し支えない、子供の歌。
しかし、それは素晴らしく澄んだ、温かい声で――
聞いていると、心が休まる。
――あれ? 寝ちゃった?
誰かが、自分の顔を覗き込んでいる。
幼い口調。先程まで聞こえていた歌声と似ている。
顔を見ようとしたが、霞がかったようにぼんやりとした輪郭が浮かぶだけだ。
――蠍さん。
おずおずと自分の肩を揺らす小さな手。
その感触を、蠍は『知っている』と思った。
だが、この手と声の主が誰であるか、どうしても思い出せない。
――起きてよ。そろそろ帰らないと、母さんに叱られちゃう。
困ったように、目の前の誰かが言う。
さっきより少しだけ乱暴に、肩を揺すられる。
ああ、目覚めなければ。
自分は、この子を親元に送り届けなければならない。
何故だかわからないが、強く、そう思う。
「あっ、やっと起きたな!」
蠍の目の前には、日に焼けた少年の元気一杯の笑顔があった。
先程の儚い歌声とは違う、生気に満ちた大きな声が撥ね回る。
「もうすぐ、俺んちに着くぜ! そしたら、父ちゃん達にも紹介するからさ!」
気がつけば、ここは車の中。
後部座席に座る蠍の横には、嬉しそうな牡羊。
そして、その向こうにもう一人…
「ったく、この状況でよく眠ってられるな」
苦虫を噛み潰したような顔の獅子。
蠍と同じく、謎のロボットに選ばれた存在。
彼は、偶然にも蠍が助けた少年、牡羊と知り合いであった。
「なんだよー! あんだけ戦えば疲れるに決まってるだろ!
獅子なんか、せっかくロボットに乗ったのに、ボーッと突っ立ってただけじゃんか!」
「う、うるさい! いきなり動かせるか、あんなもの!」
牡羊に指摘され、獅子の顔が赤らむ。
確かに、獅子はロボットに搭乗し、動かすことに成功した。
だが、何もしないうちに巨人達は撤退してしまい、活躍の機は無かった。
それは蠍が大半の敵を打ち倒した為なのだが、
結果的に、軍の記録映像には蠍の活躍と、ただ立ち尽くす獅子が残された。
それが牡羊的にはとても不満であり、
獅子としては弟分の前で恥をかかされた気分なのである。
もちろん、双方とも、仕方が無い事だとは思っているのだが。
むしろ、蠍のようにすぐさま戦える方が不自然なのだ。
ただ、その不自然さが、牡羊にとってはヒーローとして絶賛され、
獅子にとっては胡散臭く感じられるのだった。
先程の戦闘後、彼ら3人は防衛軍の基地に招かれ、例のロボットについて説明を受けた。
曰く、あれは軍の秘密兵器であり、動かせるのは選ばれた者だけである。
選ばれた以上、たとえ民間人であっても戦闘に参加して貰わなければならない。
なぜなら、あのロボット以外、巨人達を倒す術は無いのだから――
敵たる巨人達の正体ははっきりしていない。
しかし、古代より存在し、破壊の限りを尽くす存在と伝えられてきた。
人類の切り札たるロボット、ジェミニオンは、来るべき破壊に備え造られたのだ。
「ジェミニオン、か…」
ポツリと、蠍が呟く。
乙女と名乗った司令官は、あのロボットをそう呼んだ。
蠍に『資格がある』と告げた男もまた、同じ名を口にした。
ということは、おそらく、彼も防衛軍の関係者なのだろう。
そんなことを考えていると、車が止まり、前方から声を掛けられた。
「着きましたよ。ここで間違いありませんよね?」
「そう、ここ! 俺んち!」
牡羊が助手席に座る人物に元気よく答える。
柔和な笑顔が頷き、後部座席のメンバーを見渡した。
「では、牡羊君のご両親、つまり、獅子君の保護者にご挨拶させていただきます。
あくまでも非常時による志願者の募集に、獅子君が自ら手を挙げたという形で…」
「わかってるって。さっき何度も説明されたからな」
獅子が心底うんざりした顔で言う。
助手席の男、天秤はもう一度頷き、それでも最後に念を押す。
「牡羊君、わかってますね? あのロボットのことは絶対秘密。
それが守れなければ…」
「わ、わかってるよ! 絶対、絶対言わないから!」
牡羊は蠍にしがみつき、必死になって首を振る。
ジェミニオンは秘密兵器。ゆえに、その存在はパイロットを含め極秘である。
偶然とはいえロボットと遭遇し両パイロットを知ってしまった牡羊は、
いざとなったら『記憶を消す』と、散々脅されたのである。
「よろしい。では、参りましょうか」
天秤に促され、三人が車を降りる。
昔ながらの商店街の酒屋。ここが、牡羊の家だ。
「蠍兄ちゃん、こっち!」
牡羊が蠍の腕を引っ張る。
小さく、温かい手。
またしても、既視感が蠍を襲う。
しかし、夢の面影はすでに失われ、それを探る手掛かりは無い。
かろうじて残っているのは、微かな歌の印象だけ。
――あの歌…
夢の中で聞いた歌。
それは、ジェミニオンに呼ばれた時に聞こえた歌と似てはいなかったか。
だが、思い出そうとすればするほど、記憶は薄れ、わからなくなっていく。
確かなのは、自分が、自然に体が動くほど戦いに慣れているということ。
そして、今後は、あのロボットと共に戦わねばならないということだ。
――ジェミニオン。
自分がいったい何者なのか、もしかしたら『彼』が知っているのかもしれない。